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はじめに

足関節捻挫(足首の捻挫)は、全スポーツ障害のうち15%の発生率を占めており非常に発生頻度の高い障害です。

足関節捻挫は一般の方々の予想以上に治りづらいものが多く、あるドクターの調査では、足関節捻挫の受傷後、半年以上経過した後でも、なんらかの後遺症を訴えるものが半分以上を占めたそうです。 おそらく、骨折に比べて軽視されることが多いため、結果が悪いのだと考えられます。

スノーボードのみならず、オフトレや他のスポーツ、または日常生活でも遭遇する可能性の高いこの障害についてまとめてみました。
先生より

平成11年に茨城県牛久市で蛯原接骨院を開業し、現在に至ります。 身体の「痛み」等の症状に対し、様々な視点から施術をしております。

今回、スノーボーダーのための「リハビリテーション講座」という企画のお話を店長より頂き、自分達自身の勉強にも繋がると考え、若輩者ながらもお受けすることにいたしました。

私たちも、数年前にスノーボードに出会い、その魅力にはまり、親しみつつも、実はさまざまな怪我をしております。 スノーボーダーの場合、ある意味怪我や痛みを勲章のように考えてしまう傾向がありますが、やはりどんな怪我であれ、怪我をする前の状態には完全には戻らないのが現実です。 本当は怪我をしないように十分気をつけて楽しむ事が一番大切なのですが、ここでは怪我をしてしまったらどうすればいいのか?ということを少しずつですがお話していきたいと思います。

多少なりとも、みなさまのお役に立つことができましたら幸いです。

蛯原接骨院 蛯原 吉正
H5年茨城県藤代町の接骨院にて研修開始
H8年柔道整復師国家試験合格
H11年埼玉県浦和市の整形外科に勤務
H12年千葉県流山市の整形外科に勤務
H14年「蛯原接骨院」を開業

外傷発生時

「もし、足首をひねってしまったら……」

怪我をしたのがゲレンデだったら、損傷が強そうな場合(自力で動けないような場合)は、まずブーツを脱いでください。 損傷が強い場合は腫れが急速に出現してきますので、ブーツが脱げなくなってしまうこともあります。

これはどの部位の怪我にも言えることで、例えば転倒して手を付いて骨折などした場合は、受傷後時間が経つと指輪やブレスレットなどが腫れのため外せなくなり、アクセサリーで締め付けられた手指も鬱血して大変なことになります。 怪我をしたと思ったら、その部位を締め付けているものはすぐに外すということを覚えておいて損はないと思います。 その後はパトロールを呼んでもらい、救護室にて処置を受けてください。 帰宅後、医療機関を受診して下さい。 ゲレンデの外であれば、整形外科や接骨院等の専門医を受診しましょう。

いずれにしても怪我をした場合は、一度診察を受けて、怪我に対する処置をしてもらう事が大切です。 ただ、診察や応急処置を受けたくても無理な場合もあると思います。 次は「自分でできる応急処置」について説明します。
RICE処置

RICE(ライス)とは怪我をした際、患部に対して行う事が望ましいとされる項目の頭文字をとった呼称です。
  • Rest(安静)
  • Ice(冷却)
  • Conpression(圧迫)
  • Elevation(高挙)
RICE処置は受傷後直ちに行うことが重要です。 RICE処置の第一の目的は、怪我により出現した患部の炎症を軽減させることです。 受傷後15~20分以内に正確なRICE処置を施すと、受傷後スポーツ活動等に復帰する迄の期間が数日あるいは数週間短縮されるというデータもあります。 以下に、それぞれの処置について簡単に説明します。

Rest(安静)
安静第一!無理をして動くと、患部の炎症が増し悪化して強い痛みを引き起こすことが多くあります。 そうなると当然回復までの時間が長引くことになります。

Ice(冷却)
冷却をする事により炎症症状を軽減させることが出来ます。 患部を濡れたタオル等で覆い、その上からビニール袋に氷や雪を入れた物を乗せます。 氷や雪がないときは水道水でも構いません。 コールドスプレーや冷湿布は、皮膚表面の温度が下がるだけで冷却の役割は果たしません。 やはり氷や冷水などで、ある程度の時間(15分以上)しっかり冷却してください。 また、氷を使って冷却する際には凍傷に注意してください。

Conpression(圧迫)
圧迫は、患部の内出血等による腫れをできるだけ少なくする為に行われます。 患部にパッド(ハンカチ・タオル)をあてて包帯を緩めに巻きます。 包帯をきつく巻くと神経や血管を圧迫するおそれがあったり後に出る腫れが非常に強い場合に、色々な弊害をきたす可能性がありますので注意してください。

Elevation(高挙)
患部をなるべく心臓より高めの位置にすることにより、腫れやむくみを抑えることができます。 下肢(膝・足首等)の怪我の場合は、仰向けになり足の下にタオル等を入れて患部を高くします。 それが難しければ、椅子に座った状態でもう一つの椅子に足を挙げておく、という方法もあります。
捻挫の種類

足関節捻挫を大まかに分けると、内反(内捻り)捻挫と外反(外捻り)捻挫の2種類に分類されます。 一般的には内反捻挫の方が発生率は高いです。

内反捻挫
足首を内反した際、かかった外力が強いと、骨折を起こすことも 多くあります。

外反捻挫
足首を外反すると、内反捻挫に比べて外力の加わり方が強いため、捻挫では済まずに大きな骨折や脱臼を起こしてしまうことも少なくありません。

いずれも、重傷度により1~3度に分類されます。

内反捻挫で損傷されやすいのは、主に前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)、前脛腓靭帯(ぜんけいひじんたい)、 二分靭帯(にぶんじんたい)、踵腓靭帯(しょうひじんたい)です。 特に問題になってくるのは、前距腓靭帯・前脛腓靭帯を損傷した場合です。 これらの靭帯は、足関節の安定性を保つという点に於いて非常に重大な役割を果たしており、ここを痛めたまま適切な処置を行わないと、足関節の不安定感が出現・残存します。 これについては後ほど詳しく説明します。 また、二分靭帯を痛めた場合、受傷直後は症状が軽いため、その後も運動などを続けてしまい、少し時間を置いてから、激しい炎症を起こし、歩くことができなくなることがよくあります。

外反捻挫で痛めやすい靭帯は、三角靭帯というところです。 症状は比較的強く出現します。
靭帯損傷の程度の分類

足関節捻挫を大まかに分けると、内反(内捻り)捻挫と外反(外捻り)捻挫の2種類に分類されます。 一般的には内反捻挫の方が発生率は高いです。

1度
靭帯の一部が瞬間的に伸ばされたのみで、靭帯の損傷は少なく、機能的な損傷(靭帯の動揺性・関節の可動域制限)が見られないもの。 痛み・腫脹は軽度である。 内出血はないか、あっても軽微。

2度
靭帯の部分断裂、足関節の外くるぶしの周りに痛み・腫脹・内出血が出現。 関節の不安定な感じが出現。

3度
靭帯の完全断裂、受傷後の痛み・腫脹が強く足関節外側部全体に見られる関節の不安定な感じが強く、痛みにより歩行困難となる。 場合によっては(スポーツ選手等)手術適応になる。

どの靭帯をどの程度損傷したかを知るには、専門医の検査・診断が必要となります。
リハビリテーションを開始する前に

怪我におけるリハビリテーション(以下リハビリ)とは、怪我や固定によって低下した損傷部位の柔軟性や、損傷部位周辺の筋力等の機能性を、怪我をする前に近い状態まで回復させる事を指します。

しかし、基本的に受傷直後(急性期)はまず患部の炎症・出血等を落ち着かせ、その後(回復期)は患部の血行を促し、損傷部位の回復を図る必要があります。 また、損傷した靭帯など軟部組織がある程度修復するまでの間(急性期-回復期)は、患部の固定をする事が必要不可欠となります。

リハビリは、基本的には患部の状態がある程度回復・安定してきてから行いますので(自己判断で痛めたところを無理やり動かしていては、患部の状態が悪化するばかりです)上記のような状態では通常行いません。 ここでは、急性期~回復期(初期)に、自宅で行える処置を説明します。

「冷却療法」
受傷直後に行います。 急性期の痛みや炎症を和らげるのに効果があり、この時期の治療全体に用いられます。 また、運動やリハビリで患部に負担をかけた後に、患部の刺激症状を減らすのにも役立ちます。 例えばプロ野球選手のピッチャーが、試合後のインタビュー時に肩や肘を冷却しているのも、これに基づいて行っているものです。

受傷直後の場合は、患部を冷却し痛みが麻痺した状態で足関節を動かすことにより、患部の拘縮(怪我した後に関節の動きが固くなる事)を最小限に抑え、競技への早期復帰を目指すことが出来ます。 ただし、専門医の診察を受け、どの部位をどの程度損傷しているか、ということが判った上での話です。 足関節に関しては、いずれの靭帯にしても第1度~第2度までの損傷に限ります。 微細なものでも、骨折などがある場合は早期の運動は禁忌となります。

専門医を受診、通院している場合は、専門医の指示に従ってください。 専門医によってギプスシーネや包帯等で固定されている場合、その上から氷などで冷却するのも有効です。

「急性期(受傷後3日以内)の足関節捻挫における具体的な冷却療法の一例」
  • 氷水の入ったバケツに足を浸す。 脛の中央付近まで浸せるとベター。 冷たさで患部が麻痺して感覚がなくなってくるまで浸す(約10~20分)。
  • バケツから足を出し、患部が冷たさで麻痺している間(約2~3分)、自動運動(自分で痛みなく動かせる範囲で足首を上下に動かす)を行う。
  • 再度、バケツに足を浸す(5分程度)。
  • 再度、バケツから足を出し、感覚が麻痺している間(2~3分)、自動運動をする。
  • それを4~5回繰り返す。
専門医の診断・指示等がない場合は、自動運動は行わず、冷却のみを行ってください。

「温熱療法」
基本的に受傷後3日以内には行うのは禁忌とされています。 受傷直後の患部からの出血が治まり次第、温熱療法を開始し、患部の血行の促進を図ります。 血行を促進することによって、痛めた組織の修復に必要な栄養素がより早く患部に行き渡ります。 また、温めることによって、筋肉や靭帯などの軟部組織をより柔軟にし、結果として関節を軟らかくします。

「自宅で出来る温熱療法」

蒸しタオルでの温罨法(おんあんぽう)
簡単なものでは、濡らしたタオルを絞り、絞ったタオル数枚を電子レンジで温めて、それを重ねて患部に当てます。 ビニールなどをタオルの上に重ねて密着させると、保温性が高まります。 冷めてきたらタオルを取り替えて同様に繰り返してください。

温冷交代浴
温冷交代浴は通常の温熱療法に比べて血行を促進する効果が非常に高いため、主に手術後の腫れの強い場所や、外傷後に起こる関節拘縮、また痛みの訴えの強い方への治療の一環として行います。 可能であれば1日数回行ってください一つの例として、足関節捻挫の際、入浴時に出来る温冷交代浴の方法を挙げてみます。
  • まず、温かいお湯を張った湯船に捻挫した患側の足を2分程浸します。
  • その後足を湯船の外に出し、冷水のシャワーを1分程度当てます。
以上の動作を4~5回繰り返します。 必ず最後はお湯に浸して温めて終わるようにして下さい。

これが終わった後、患部はぽかぽかと暖かくなりますので、その間に足関節の自動運動を行ってください。 1~2回の交代浴では十分な効果は得られません。一定期間以上の継続が必要です。

足関節の運動メニューは次回以降詳しく記していきます。
必要性

なぜリハビリテーションが必要なのかを、例を挙げて説明します。

夏も終わろうとしているある日、ロングスケートの練習をしていて転倒、足首を強く捻りました。 自力で歩くのはおろか、立つ事も辛く、(これはマズイ)と思い、近くの医療機関を受診しました。 検査の結果、骨折は無かったものの、足関節の前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)の損傷程度が強いことが判り、足の甲から脛の中程までの範囲をプラスチックギプスで固定することになりました。

そして、怪我をしてから四週間が経過、病院に行くと、損傷部位の回復が見られたので、痛めた足首の固定を外すことになりました。 喜びもひとしおながら、いざ帰ろうとして立ち上がると、足首に違和感があります。 歩き出してもその違和感はとれません。 しゃがんだり正座をしたりというような、体重が乗った状態で足首を極端に曲げ伸ばしする動作は、違和感というより痛みがあり行うことができません。 この足でシーズンインに間に合うのか? 今期満足いく滑りが出来るのか? せっかく今期はギアも新調したというのに!!不安が募るばかりです。

このように、損傷した骨や靭帯が修復したから、といって、痛みが無くなる訳ではありません。 足を捻った後、痛めた足首をかばって歩いていたり、若しくは長期間固定を続けていたりすると、必ずと言ってよい程、足関節自体や周りの筋肉の柔軟性が低下してきます。

この状態になると、リハビリテーションなしでは関節自体の機能の回復が望めないだけでなく、靭帯・関節やその周りの筋肉の柔軟性、また固有知覚(バランス感覚)も回復しないため、競技等で本来のパフォーマンスを発揮できないばかりか、日常生活にも支障を残しかねません。 また、痛めた部位を再受傷しやすくなるだけでなく、足関節の固さが原因になり、他の部位の二次的な障害や損傷が出現する可能性もあります。

現在では上記の理由から、早期からのリハビリテーションが必要と考えられています。

但し、医療機関を受診している場合は、スポーツをやっていることを担当医に伝え、その上で早期復帰を目指すことが重要です。 自己判断で固定期間を短くし、無理に関節を動かすことは、危険です。 詳細は前項を参照して下さい。
トレーニングの種類

外傷後のリハビリテーションの種類は大別して二つに分けられます。

痛めた箇所自体(主に靭帯・関節の柔軟性)を強化する為の「患部トレーニング」と、痛めた箇所の周囲の筋肉の筋力・柔軟性を強化する「患部外トレーニング」です。

「患部トレーニング」は損傷した部位の状態に応じて担当医と相談して行います。

「患部外トレーニング」は患部に負担がかからないように注意して、受傷後なるべく早い時期から積極的に行うことが大切です。

足関節の「患部トレーニング」を行う場合、もしまわりにトレーニングについて相談できる人がいない場合は、まず自分で無理のないように足首を回したり、曲げ伸ばしをしたりして、痛みが出ないか確認して下さい。

痛みが出るようであれば「患部トレーニング」を行うには時期尚早ということです。 痛みがないようであれば、徐々に「患部トレーニング」を開始してみてもよいと思います。
トレーニングの目的と注意点

足関節捻挫のリハビリテーションの目的として、主に
  • 足関節の関節可動域(関節の柔軟性)の獲得
  • 足関節の運動に関係する周囲の筋力の強化
  • 固有知覚(バランス感覚)の回復
の3つの項目が挙げられます。

ここでは、自宅にて特別な道具などを用いないでできるリハビリ・トレーニングのそれぞれの具体例を挙げます。

各項目とも、最初に挙げてある方法が一番患部に負担のかかり難いトレーニングです。 負担のかかり難い順に記載していきますので、痛みが出ない範囲・力加減でトレーニングを行ってみてください。

トレーニングを進める途中で痛みが出たり、終わった後に腫れが出るようでしたら、トレーニングに少し無理があるということですので、トレーニングのペースを抑えるようにします。

また、前項でも挙げましたが、リハビリ・トレーニングの前後(最中)に、必ず(状態に応じて)冷却・温熱療法を行ってください(冷却療法は患部の炎症を抑え、温熱療法は患部周辺の軟部組織である筋肉・靭帯等を柔らかくするのでリハビリ・トレーニングの効果を増大させます)。
足関節の可動域の獲得

基本的に患部の直接のトレーニングになりますので、必ず痛みの出ない運動範囲で行うようにしてください。

受傷後早期にはじめてよいもの(ただし痛みの出ない範囲で)

椅子に座って、足首を背屈(上に曲げる)する。

次に足首を底屈(下に伸ばす)する。

各10回ずつ、2~3セット行う。

歩行時の痛みが減少(もしくは消失)してから行うもの

座位(椅子に座る)にて、足関節を爪先で小さな円を描くようなイメージで回す。 慣れてきたら段々大きく回す。 内・外各方向に10回ずつ、2~3セット行う。

立位もしくは座位にて、足首を使うことを意識して、空中にアルファベット26文字を書く。 1セット行う。

特定動作(しゃがむ・正座等)以外での日常生活での痛みが消失してから行うもの

腓腹筋・アキレス腱のストレッチと足関節背屈可動域の拡大を目的としたエクササイズ壁に胸の高さで両手を着き、痛めた方の足を後ろに引いて立つ。 両足はまっすぐ前に向け踵はしっかりと床につけたまま体重を手で支え、前足の膝を曲げ後ろの膝はそっと伸ばす。 後ろ足を床に6~10秒間押し付ける。 2秒休んで腰を前に動かし、後ろ足をまっすぐ伸ばしふくらはぎが引っ張られる感覚を意識しつつ、さらに6~10秒伸ばす。 このとき呼吸は止めないこと。

入浴時、浴槽に浸かって行う正座の練習(足関節底屈可動域の拡大を目的とする)。

湯を貯めた浴槽の中で正座の姿勢をとる(浮力が作用する為、通常より楽に座れる筈)。

これで痛みが出なければ、痛めた方の足の甲の下にタオルを折りたたんだものを当てて正座する。 徐々に慣らしていき、最終的には痛めた足を反対側の足の上に重ねるように正座をする。
足関節の運動に関係する筋力強化

腓骨筋の強化(過回内-足が通常より内側に入りすぎていること-内反捻挫の予防)

タオルを横長に床の上に置き、怪我した足の小指側とタオルの端を合わせ、タオルの下端部を足の指の付け根で踏むような形にポジショニングする。

踵を床から外さずに、足を外側に返すようにしながら、親指とその付け根部分を使ってタオルを手繰り寄せていく(踵を軸に足部を外側に回旋させる。 このとき下腿はなるべく回旋させないようにする)。

慣れてきたら、抵抗を増すために、本等おもりになるものをタオルの逆端に乗せ、同様に行う。

端から端まで全て手繰り寄せて1セット。 2~5セット程繰り返して行う。
固有知覚(バランス感覚)の回復

人間が、目をつぶったままでも姿勢をコントロールできるのは、固有知覚が発達しているためです。

固有知覚は、中枢神経と各部位の筋肉、腱、靭帯との微妙な相互バランスで保たれているので怪我をして、各関節の様々な機能が低下すると、当然固有知覚も低下します。 外傷後、固有知覚が早期に回復すると、スポーツ復帰したときの再受傷の危険性が減少しますが、固有知覚の回復が不十分だと、使いすぎにより起こる障害や急性の損傷を引き起こしやすくなります。

足関節捻挫後の固有知覚の回復訓練は、目を閉じて怪我した方の足で片足立ちするといったことで回復を得ることが出来ます。

さらに段階を上げていくとすると、怪我した方の足で片足立ちしながら、反対側の足で、アルファベット26文字を空に描きます。 この時は、前述したものと違い、脚全体を使うことを意識して行います。 いずれにしても、片足立ちでバランスを崩すと再受傷の可能性もありますので、壁のそばなど、すぐそばに身体を支えるものがあるところで行ってください。
用具について

怪我をした後、ある程度のリハビリテーションを重ね、日常生活において痛みが気にならなくなり、なおかつぎこちないながらも、しゃがむ動作や正座をする動作等があまり苦痛を感じずできるようになってきたら、少しずつ競技復帰を考えても良い頃だと思います(但し、医療機関に通院している場合は、専門医の指示に従ってください)。

まず、スノーボードをする上で大切なのは、自分にあった道具を使っているかどうか、ということです。 特に足回り(ブーツ・インソール・ビンディング)は重要になってきます。

ブーツ
通常、自分の足のサイズよりも大きめの靴を履いている方が多く見受けられますが、スノーボードでは、自分の足にフィットしたブーツを選ぶことが大切です。 足がブーツの中で遊んでしまうような状態ですと、転倒したときに捻挫などを起こしやすくなります。 当然、滑りの上達を妨げることにもなります。

インソール
ブーツの中に入れる中敷です。 インソールを成型し、使用することで、脚のアライメントを正常な状態に近づけることが出来ますので、捻挫をし難くなるともいえると思います。 また、足が疲労し難くなるので、疲労が引き起こす足の痛みは確実に和らぎます。

ビンディング(スタンス・セッティングの再確認)
私はアルペンスタイルで滑ったことがないので、アルペンのことはわかりませんが、フリースタイルの場合、ここ数年はダックスタンス(後ろ足の角度をマイナスに設定すること)が流行しています。 私自身は、適度なダックスタンスは、捻挫しやすさ、し難さの観点だけで考えるとお勧めできると思います。

理由はノーマルなセッティングの場合、後足が内側に入った状態になります。 普通に滑っている際は何ら問題がないのですが、スノーボードの場合、派手に転倒すると、どうしてもボード等の足回りが軸の中心になって身体が転がっていく形になると思います。 そうでなくても、足回りはボードが固定してある分重たいので、身体が転がろうとする向きに反して足がねじれてしまう、ということは、おそらくみなさんも経験したことがあるのではないでしょうか?

そういった時に足が内側に入った状態で固定されていると、内反捻挫を起こしやすいと思います。 ただし、これは個人差がありますので、すべての人に言えることではないことをご了承ください。
ウォームアップとストレッチング

ウォームアップ
ウォームアップは、運動を行う上で非常に大切なことです。 ウォームアップを行い身体が温まると、関節や筋肉の柔軟性も高まりますので、怪我をし難くなるだけでなくパフォーマンスも向上します。 可能であれば、ウォームアップを行った上で、ストレッチングを行うのが理想です。

ストレッチング
足首周りの筋肉、ということで考えると、スノーボードにおいては、主に下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋という二つの筋肉から成ります)を中心にストレッチングを行うと良いと思います。

「下腿三頭筋のストレッチング」
壁から約1m離れて立ち、膝を伸ばしたまま足先は前に向け、踵は床につけたままにしておきます。 両手を壁につけて壁の方に上体を倒すことによって腓腹筋がストレッチされます。

また、同じ姿勢で、膝を若干曲げた状態で同様の動作を行うと、ヒラメ筋がストレッチされます。
テーピング

一口にテーピングといってもいろいろな種類・巻き方があります。 ここでは、誰でも簡単に入手でき、手軽に貼ることができる「キネシオテープ(肌色の伸縮テープ)」を用いた足首のテーピングの方法の一例を説明します。

腓腹筋テープ
足裏かかと部分に、切り込みを入れたテープの基部を貼り、かかとよりふくらはぎを包むように膝裏まで貼っていく。 アキレス腱を伸ばすようにして貼ると筋肉をストレッチしやすい。

前脛骨筋テープ
親指の付け根から脛の外側に回りこむように貼っていき、膝の下で止める。 足首を内側に入れ、足首を伸ばして筋を伸ばすようにして貼る。

長腓骨筋テープ
足裏小趾側から外くるぶし後方を通って、下腿外側にそって膝の横まで貼っていく。

アーチテープ
足首の内側からスポーツテーピングのフィギュアエイトの要領で、足裏から足首にかけて2回巻きつける。

「フィギュアエイト」
足首を中心に、足裏から足首にかけて8の字にテープを巻く方法。

これらを順に貼っていくと、足首やその周りの筋肉をサポートするテーピングが完成します。 足首の捻挫の予防の意味でも有効です。
最後に

「捻挫」を軽視することの危険性
たかが捻挫、なんて甘く考えてはいけません。 同じような足の捻り方でも、捻挫にとどまらず骨折を引き起こしている可能性もあります。 小さな骨折の場合は、足を痛めた後でも痛みをかばいながらも自力で歩ける場合が多いので、大丈夫かも?などと自己判断で診察を受けずに様子を見ている方も少なくありません。

しかし、骨折を放置してしまうと、スノーボードのみならず日常の生活にも多大な影響を及ぼします。 また、幸いにも骨折がなく、捻挫であった場合でも「捻挫=靭帯・関節の損傷」ですので、放っておけば様々な弊害が出てきます。

主に挙げられるのは

慢性足関節不安定症(足首の外れるような、不安定な感じ)

以前は、繰り返しの足関節捻挫によって靭帯が緩くなってきて起こると考えられていましたが、最近、捻挫後の治療過程において3つの重要な機能が失われるために起こることが証明されました。

その失われる3つの機能を下記に示します。
  • 固有知覚(神経の運動・反射・反応時間、簡潔に言えばバランス感覚)
  • 筋肉系(筋肉の強さ・持続時間・柔軟性)
  • 機械的機序(靭帯の緩み等、損傷箇所の修復が十分でない場合)
リハビリテーションの項目でも説明しているので若干重複しますが、この3つをなるべく低下させないよう、リハビリテーションのメニューを組み立てる必要があります。

他に挙げられる弊害は
  • 損傷部位の再受傷のリスクが高い
  • 足首をかばいながら動く事によって膝や腰などへの負担が増す→二次的な痛みが出現
  • 足関節の可動域(足首の柔らかさ)が失われる→他の部位への影響が出現(足首周りの筋肉の柔軟性・筋力の低下、痛みの出現)
  • 運動時のパフォーマンスの低下
スノーボードで言えば足首の柔軟性が低下することで、低く安定した姿勢が取りづらくなるため、フリーランのみならず全てのジャンルにおいて悪影響が出てきます。

以上の理由から、足を捻って歩行などに支障のある痛みがある場合は、医療機関の受診を強くお勧めします。

上手な医療機関のかかり方
受傷後、大きな病院等を受診すると、レントゲンを撮って骨に異常が見つからなかった場合は湿布を渡され「様子を見てください」とか「一週間後にまだ痛みがあったら見せて下さい」と言われることも少なくないと思います。 大きな総合病院と個人経営の整形外科・接骨院等では基本的な診療・施術の範囲は同様です。

しかし、総合病院では患者数も多く、どうしても重症の方・生命の危険性のある方を優先に診察・治療せざるを得ないため、比較的軽症の(少なくとも命に別状がない)捻挫などで受診しても、上記のような事態になってしまうのも止むを得ないと思います。

逆に個人経営の整形外科の場合、患者様個々に対して比較的きめ細かいケアができますが、設備等の都合上、詳細な検査を行うためには総合病院等を紹介、受診していただくしかない場合もあります。

同様に、接骨院の場合もきめ細かいケアが期待できますが、接骨院ではレントゲン検査を行うことはできません。 超音波骨観察器(エコー検査の機器)を導入しているところもありますが、まだまだ少数派で、尚且つ骨折の治療を行うには、レントゲン検査と医師の診断が必要となります。

当然、詳細な検査が必要な際は、総合病院などを紹介、受診していただくことになります。

このように、同じ診療科目の医療機関でも、それぞれ得手・不得手の分野がありますので、上手く医療機関を使い分けるということが大事だと思います。 受傷後、医療機関を受診して、「異常なし」と診断されたとしても、まだ痛みがある場合は、早めにセカンドオピニオン(別の専門医からの違った視点の診断)を受けることを強くお勧めします。 近所の方や友人、職場の同僚などに話を聞いて、あらかじめ信頼できるかかりつけの医療機関を探しておくと、いざというときに心強いかもしれませんね。
膝関節を中心とした外傷について

スノーボード滑走時の膝の怪我(捻挫・打撲)は、発生頻度が比較的高いと言えると思いますが、同じ雪上滑走スポーツであるスキーと比べると、膝の重大な損傷の発生頻度はやや少ないと思われます。

スキーの場合は、滑走時の身体の方向が前向きであり、また、両足が固定されていないので、側方(左右)に転倒しやすく、その際膝下が捻れて、膝の靭帯や半月板の重篤な損傷を起こす割合が高くなります。 ただし、スノーボードの場合、滑走時の身体の方向が身体の正面に対して横向きであり、尚且つ両足が固定されるため、身体の向きに対して前方または後方に転倒することが多くなっています。 このため、スキーに比べて、頭部・腰部・また手首や腕の重篤な怪我をする割合が高くなっています。

スキーもスノーボードも、通常の競技に比較して、怪我のリスクが高いということは事実だと思います。 しかし、スノーボード滑走中に膝を痛めた、または痛みを覚えた経験がある方は、思いのほか多いのではないでしょうか?

一旦膝関節やその周辺を痛めてしまうと、スノーボードをする時のみならず、場合によっては日常生活にも多大な影響を及ぼします。

ここでは、主にスノーボードをする上で遭遇し易い、膝とその周辺の外傷を取り上げてみたいと思います。
膝関節とその周辺の構造について

膝関節とは、大腿骨・脛骨・腓骨をつなぐ関節で、人体の中で最も複雑な関節の一つといえます。

また、膝蓋骨(いわゆる「膝のお皿」)と大腿骨から成る、膝蓋大腿関節という関節も存在します。

その膝関節を支えている多くの靭帯群の中で最も重要で、尚且つ損傷し易い靭帯は、十字靭帯(前・後)と側副靭帯(内側・外側)です。

また、膝関節内部に存在する半月板(内側・外側)という組織は、膝関節の安定化や衝撃の吸収等、膝関節にとって重要な役割を果たしていますが、これも運動競技の中で損傷され易い組織です。

その他ほかにも

多数の滑液包
関節液で満たされた袋状の組織で、関節が動くときの摩擦による衝撃・影響を和らげる役割を果たす。

多数の腱組織
多数の筋肉が膝関節周辺に起始・停止を起こしているため、太い筋肉が関節の周囲にあるとその関節の動きを妨げてしまうので、細く強靭な腱組織に置き換わる。

関節軟骨

などが存在します。
膝関節とその周囲のスノーボード外傷

スノーボードの滑走中に転倒などをして怪我をした際、痛めた部位にかかる外力は、通常のスポーツで発生する怪我よりも相当大きなものとなります。

ゲレンデの斜面を滑る上で、滑走者自身の意志による身体運動(重心移動・体軸移動等)に 伴って発生する外力と斜面をある程度の速度で滑降することによって発生する、意志とは無関係な外力≪スピード・重力やギア(板やブーツの重さによる下肢への牽引力)≫が合わさって、外傷発生のエネルギーとなります。

こういったことから、怪我した当人が考えるよりも強い損傷を引き起こしていることが少なくない、と言えるでしょう(これは、膝だけに限らず、スノーボードでの怪我全般に言えると思います)。

スノーボードでの膝の怪我と言って真っ先に思いつくのは、転倒時の膝の打撲。 これは誰でも多少なりとも経験があると思います。 しかし、転倒で膝を強打しただけでも、打ち所が悪いと膝の靭帯(主に後十字靭帯)を損傷してしまう可能性があります。 条件が悪ければ、膝周辺の骨の骨折(膝蓋骨等)を起こす場合もあります。 また、そういった損傷はなくても、関節内水腫(関節の中に水がたまる事)が発生する場合もあります。

次に思い浮かぶのは、キッカーやテーブル等を飛んだあと、着地に失敗してしまい
  • 膝を伸ばしたまま、衝撃を吸収できない状態で着地してしまう。
  • 着地の際バランスをくずし、膝を雪面に強打する。
  • 大ゴケして数メートル単位で転がってしまった際に膝がねじれてしまう。
など、その際の強い衝撃が原因で膝を痛めてしまうことも少なくないと思います。 この場合も、膝の関節軟骨や靭帯、半月板などを痛めることがあります。

こういう怪我の場合は徒手検査(ドクター自身の手で患部にストレスを加えるなどして、どの部位を損傷しているのかを調べる事)や精密検査などをしても、特に際立った損傷が見つからない場合もあります。 そういった場合でも、強い衝撃による膝全体へのダメージが大きいためか、非常に痛みが強く、自力での歩行が困難になるような場合もあります。

あとは繰り返しの外力・衝撃によって起こる、いわゆる「使いすぎ・疲労」が元になって出現する痛みというようなものもあります。 膝関節の周辺には多くの筋肉・腱が付着していますが、フリーランの際の膝の連続した屈伸運動や、繰り返しキッカーを飛んだ際の着地の衝撃などで、それらの筋肉や腱に絶えずテンションがかかった状態になると、それらが付着した部分に炎症が起き、痛みとなってしまう場合を指します。

痛みの出る場所は膝の内側であったり外側であったり、膝蓋骨の下側であったりと原因となる筋肉・腱によって、様々な部位に出現します。

ほかにもまだまだスノーボードでの膝の怪我の原因というのは(ゲレンデでの衝突事故など)あるかとは思いますが、大体上記のようなことがきっかけとなり、膝の痛みが出現するのでは…と考えられます。 足関節捻挫の項目でも説明しましたが、これらの鑑別診断には専門医の精査・診断が不可欠です。

先ほど書いたことと重複しますが、スノーボードでの怪我は通常の外傷発生時のエネルギーをはるかに大きく超えた状態で発生しますので、損傷程度が強い可能性が高いです。 また、膝の構造は非常に複雑です。 膝を一度痛めてしまうと、場合によっては一生涯付き合っていかなければならないウィークポイントになってしまうことが少なくないのも事実です。

受傷後、ゲレンデで動けなくなってしまった場合はもとより、歩行時・膝の屈伸時に痛みが出る場合は、できるだけ早めに専門医を受診することをお勧めします。

受傷後の応急処置的なことは、足関節捻挫の項目(RICE処置)を参照してください。 膝の痛みに対する治療・施術は、かかりつけの専門医にお任せすることにして、次はリハビリテーションと競技復帰に向けてのお話をしていきたいと思います。
受傷後のリハビリテーション

膝を痛めた場合には、まず(手術などが必要な場合も含め)安静・固定を行います。 また、怪我の程度によっては、歩行時の荷重(身体の重さによる負荷)を逃す為の措置(主に松葉杖歩行)を図ります。

どのような怪我をした場合でも同様だと思いますが、安静・固定の必要な一定期間が過ぎ、損傷部位の回復が見られると、徐々に固定を軽くしながら、少しずつ患肢への荷重を増やしていきます。

これが第一段階のリハビリとなります。 ただし、この第一段階のリハビリは、損傷の度合いが強く、通常の日常生活を送れない方に当てはまりますので、たいていの人は下記の第二段階からの適応になると思います。

次に固定による膝関節の拘縮(固くなること)を改善するため、少しずつ膝関節を動かしていきます。 また、筋力の低下もみられますので、膝関節の周囲の筋力トレーニングを始めていきます。 いずれも、最初は軽く、段々と負荷をあげるようにします。

これが第二段階のリハビリになります。

以上が患部トレーニングとなります。 第三段階として(これは第二段階のリハビリと平行して行ってもかまいませんが)患部外トレーニングを行います。

具体的には、股関節・足関節周辺の筋力・柔軟性の強化です。 特に、股関節の柔軟性と周辺筋力の強化が重要となってきます。

なぜこの部分のトレーニングが必要かいうと、いくら膝関節周辺の筋力だけをつけても、競技中の再受傷を防げるわけではないからです。 たとえば股関節の外転筋群(足を外側に開く筋肉)の筋力が弱い場合を例に挙げると、運動時、それを補おうとして骨盤の側方移動の幅が大きくなるので、結果として膝が内側に入りやすくなってしまい、靭帯や半月板を損傷する原因となります。

また、それとは別に、運動時の体軸移動の際の身体のブレが大きくなるというリスクも出てきます。 そうなると身体の反応が遅れ、やはり怪我につながりやすくなります。

それ以外にも実に様々な影響があるため、現在では股関節の機能改善は、怪我の再発予防に非常に重要であると考えられています。
リハビリトレーニングの具体例(1)

ここでは、前頁で述べた第二段階の患部トレーニング(膝関節の可動域訓練・膝関節周辺の筋肉の強化)と、第三段階の患部外トレーニング(股関節の柔軟性の獲得)について具体的に解説していきます。

足関節の項でも述べたように、各項目とも、最初に挙げてある方法が一番患部に負担のかかりづらいトレーニングとなります。 負担のかかりづらい順に記載していきますので、痛みが出ない範囲・力加減でトレーニングを行ってみてください。

もし、トレーニング中や後に痛みが出るような場合は、そのトレーニングは時期尚早ということになりますので、必ず自分の身体と相談しながら行うようにしてください。

前にも述べたように、リハビリ・トレーニングの前後(最中)には必ず(状態に応じて)冷却・温熱療法を行ってください。 冷却療法は患部の炎症を抑え、温熱療法は患部周辺の軟部組織(筋肉・靭帯等)を柔らかくするのでリハビリ・トレーニングの効果を増大させます。

膝の屈曲可動域の訓練(荷重負荷無し)
床に仰向けに横になり、壁に損傷した側の脚をおく。 膝を曲げ、足を下げる。 これを繰り返す。

膝の屈曲可動域の訓練(荷重負荷有り)
椅子などの上に患側の足を乗せ(膝は約90度に曲がるような高さのものを用いる)ゆっくり前に傾き、損傷した膝を曲げていく。 10秒間このままの姿勢を保つ。 これを繰り返す。
リハビリトレーニングの具体例(2)

膝の伸筋群の強化トレーニング(荷重負荷無し)
椅子などに浅めに座り下腿(膝下部分)を下垂しておく。 その状態から足を上げる。 その際、膝は伸ばし、足関節は90度を保つ。 この姿勢を6~10秒保つ。 これを繰り返す。

慣れてきたら、錘やゴムチューブを使って負荷を上げてもいいでしょう。 また、スクワットは膝の伸筋群の強化には非常に有効ですが、荷重がかかりますので、かえって膝の状態が悪くなることもあります。 怪我の後のリハビリとしては、まずは上記の方法をお勧めします。

股関節の動的ストレッチ(前後方向)
壁に手を付いて立ち、患側の足を前後方向に振る。 慣れてきたら大きく、リズミカルに行う。
リハビリトレーニングの具体例(3)

股関節の動的ストレッチ(横方向)
壁に手を付いて立ち、患側の足を左右方向に振る。 慣れてきたら大きく、リズミカルに行う。

股関節外転筋群のトレーニング
壁に手を付いて立ち、患側の脚を外側に上げる。 この姿勢を6~10秒保つ。 これを繰り返す。

膝の伸筋群のトレーニングと同様、慣れてきたら錘やゴムチューブなどで負荷を加えてもいいでしょう。 ただし、少しでも膝の痛みや不安定感が出現するようなら避けてください。
競技復帰にあたっての準備

スノーボードを再び行う上で準備するべきギアの説明などは、足関節の項目とほぼ重複するので、ここでは、自分でできる再受傷予防の方法と、痛めた部位のサポート方法として、ウォームアップ・ストレッチング・固定方法について書くことにします。

ウォームアップ
何度も同じことを繰り返しますが、ウォームアップは、運動を行う上で非常に大切なことです。 ウォームアップを行い身体が温まると、関節や筋肉の柔軟性も高まりますので、怪我をしづらくなるだけでなく、身体のパフォーマンスも向上します。 可能であれば、ウォームアップを行った後に、下記のストレッチングを行うのが理想です。

ストレッチング
膝周りの筋肉、ということで考えると、スノーボードにおいては、主に大腿四頭筋(受傷時の筋力トレーニングの方法を説明した、膝伸筋群の大半を占める筋肉)と下腿三頭筋を中心にストレッチングを行うと良いでしょう。 また、大腿四頭筋と同様に、受傷時の筋力トレーニング方法を説明した股関節の動的ストレッチングも有効です。

「大腿四頭筋のストレッチング 」
まっすぐ立った状態で、患側の膝を曲げ、同じ側の手を身体の後方に伸ばして患部側の足首を掴みます。 このとき、骨盤を前に突き出すようなイメージで行うと、股関節がうまく伸びて効率のいいストレッチを行うことが出来ます。

下腿三頭筋のストレッチングは、足関節の項目で説明していますので、そちらを参考にしてください。

固定方法
足関節の項目ではテーピングについて説明しましたが、膝関節の場合、非常に激しい屈伸運動を繰り返しますので、テーピングのみでサポートするのは厳しいと思われます。

そこで、次頁にて、膝関節用のブレース(強固なサポーター)と、エラスティック(伸縮)包帯を紹介します。
固定方法

ブレース
手元にスポーツ外傷用のブレースがないため、ここで紹介するのはかなり強固なもの(変形性膝関節症用)ですが、医療用ブレースには用途や損傷した部位(靭帯・半月板等)別に、様々なものが販売されています。 また、現在でも販売されているか定かではありませんが、スノーボード業界最大手のB社からも、膝関節用のブレースのようなハードサポーターが販売されていました。 大きな怪我などをして、膝に自信のない方は、一つくらい購入しておいても損はないと思います。

エラスティック(伸縮)包帯
膝には自信がないけど、普段はそれほど痛まないし、ブレースほど大げさなものは必要ないかな…という方には、こちらをお勧めします。

私自身、以前、プラスチックギプスを着けなければならないような膝の怪我をしたことがありますが、スノーボード復帰後、1シーズンぐらいはこの包帯を巻いて滑っていました。

ブレースほど強固ではありませんが、膝の屈伸運動の制限ができ、膝周りもしっかりします。 持ち運びもかさばらず、何より安いです。

ちなみに市販のニット素材のようなサポーターは、膝の保温には役立つと思いますが、固定力・屈伸運動の制限、という点においてはほとんど期待できません。 ネオブレーン素材のサポーターの場合、エラスティック包帯とあまり固定力は変わらないと思いますので、安い分、こちらの方がいいのではないかと考えます。

当院では医療メーカーのものを使用していますが、同様の包帯をテーピングやサポーターを専門に扱っている会社などでも販売しているようですので、もしかすると、大きなスポーツ用品店のテーピング売り場などで、同様の商品が手に入るかもしれません。

以上で膝関節についての話はおしまいになります。 ご愛読、まことにありがとうございました。